僕たちの世代は、地元の映画館で映画を観た最後の世代かもしれない。高校3年生の秋、普通なら受験勉強とやらに集中しなければならない時期に、映画ばかり観ている時期がありました。持っているすべてのお金を映画につぎ込みました。昔から、現実から逃避するのが得意な人間です。そのころに観た映画の一つが『気狂いピエロ』。1965年のフランス・イタリア合作映画。アンナ・カリーナ、ジャン=ポール・ベルモンド主演、ジャン=リュック・ゴダール監督。ヌーヴェルヴァーグを代表する作品の一つといわれております。そのころは、映画の話をすると、やっぱりゴダールだよな、という話になります。その訳が分からないぼくは、とにかく近くの映画館に観にいきました。やっぱりゴダールだよな、の『やっぱり』の意味はおそらく分からなかったのでしょうが、次の会話だけは記憶に残っております。いま、探すのに苦労しました。
車のバックミラーを覗き込んでいるときの会話です。
マリアンヌ(アンナ・カリーナ):何が見えるの?
フェルディナン(ベルモント):時速100キロで破滅に飛び込む男の顔
次に、マリアンヌがバックミラーを自分の方に向けます。
フェルディナン:何が見える?
マリアンヌ:時速100キロで破滅に飛び込む男に恋する女の顔
そのときは、これがゴダールの『やっぱり』か、と思ったに違いありません。